箱の中。

 

りゅうめい君によって、持ち上げられた私は小さな小瓶の中に移され、慣れた世界から、少しの間だけ別荘に移動する。

別荘はいつもの世界と比べると、とても小さくてあまり動き回れないのだが深くて潜れるため良い気分転換になる。

その間に、いつもの世界は水が綺麗になり、陸が整地され、住まいがいつもの位置に配置され、時々季節の花が添えられる。

すべての工程が終わり、元の世界に返されると気分がスッキリとする。

 

やはりこの小さな世界が一番だ。

 

新しく生まれ変わった世界に戻り、綺麗な水辺で水浴びでもしようかと思っていると、

りゅうめい君以外に何人かの人物が部屋に入ってきていたようだった。

一気に人数が増えた空間は賑やかになった。

彼らは空間に入ってきた時から、ずっと会話をしていて飽きないのかとも思う。
 
そのうちの一人が近付いてきて、本日分の食事を用意してくれる。

彼は「はいじ君」だったと思う。

時々、先輩と呼ばれているからこの世界のシステムで上の立場であると理解している。

先輩と呼ばれているのは他にも何人かいるのだが、いまいち区別がつかない。

というよりかは、この世界の外はあまりにも広く、私の世界に近付いてくる人間しか判別ができない。

はいじ君はりゅうめい君が世界を再生させたあとに、毎回食料を提供してくれる。

彼から提供される食事はちょうど良い量で、世界を濁すことなく自然に消化できるくらいだ。

パラパラと上から降ってきた食料を、ちびちびと口に運ぶ。

待ちに待った本日三度目の食事は長く待った分いっそう美味い。

水に浸かってゆらゆらと沈んでいったぶんの食料は、あとで夜食にでもすることにした。

はいじ君により食事を提供されて、しばらくしたころ。

再び上空に誰かの影がやってくる。

この人物は、はいじ君とは違い最初からこの世界を見る気が無いのか、目の前に来たのに後ろを向いて誰かと話し続けている。

この人物は、「こーき」と呼ばれている。

こいつは、何故か気まぐれにやってきては食事を投げ入れてくる。

きっと先程はいじ君が食事を用意してくれたのを見ていなかったのであろう、世界に振り入れられる食事は消化の速度を無視して水面や陸地に降り積もってゆく。

ちなみに振りかけられている食料の半分ほどは、外の世界へと落ちていく。

もったいない。人の食料をなんだと思っているのか。

いつまにか眠っていたのか、目が覚めた時には小さな世界の外は暗くなっていた。

人影の無い外の世界は静かで、先ほどの五月蝿さが嘘みたいだ。

今日は月明かりが綺麗なので、しばらく空でも眺めてぼんやりしようと思う。

私の世界には、こーきの投げ入れた食料が水を吸って大きくふやけてしまっている。

全く、腹立たしい。 
 
そんなことを考えながら、住まいの屋根に登る。

今日は、もう少し。このままで。



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