suger trap

記憶を30分ほど前まで戻してみる。

HRが終わって職員室に立ち寄ったところで、理科の担当教員である山下に声を掛けられた。

「あ!小野先生―!」

「山下先生。どうしたんですか?僕に何かご用ですかー?」

息を切らしながら走ってきた山下は、すごく嬉しそうな顔で目の前にあの瓶を突き出して勢いよく話し始めた。

「小野先生のおかげです!あ、これ。この間のお礼ですので、是非是非じゃんじゃん使っちゃってください!」

早口でペラペラと話す山下を見て、この人はうっかり舌を噛んだりしないのだろうか、と要らぬ心配をしながらもどうやってこの場を切り上げるか考えていたが、5分、10分と話に付き合わされた挙句自分から去っていった。

何かを小野の手に無理やり握らせて。

というような経緯で半ば無理矢理押し付けられた使うことはないであろうそれを、どうやって山下に返そうか迷いながら本日の作業室、寮の教員用室へと持ち帰った。

同性からの贈り物で、中身の保証もない白い粉を貰ったなんて一歩間違えば犯罪になるアレではないのかと不安がよぎったが、一見して砂糖のようなので新手のイタズラなのかもしれない。

どちらにせよありがたくもないが、変わり者の山下から贈り物というのならば中身が砂糖であっても素直には受け取れない。

校舎と寮は同じ敷地内ながら、歩いて移動するには結構な距離があり、学園内を行き来する際の専用自転車を置いている。山下に話しかけられたことで遅くなったが自転車で移動すれば数分で寮に着く。

HR終了のチャイムを聞いてから寮に到着するまで、15分ほど。

その後は、この部屋で作業をしようとしたところで職員室から呼び出しの電話があり、一旦職員室へ引き返した。

その際に机の上に瓶は置いていったはずだが、戻ってきたら無かった。

「ゆーちゃーん!?」

腕を組んで一人机の前で悩んでいると、勢いよくパァン!と音を立ててドアを開けられた。

「ハァ...ハァ...ゆーちゃん!っハァ...ちょ、水ちょうだい...」

「...うん、そうだね。はい」

 

「すみません、龍明くん。あの...説明してもらってもいいですか?」

「あ、はい。えっと...」

天使の質問に答える形で鬼頭が説明してくれたのを頭の中で時間順に整頓していくと。

いつも通り生徒会室に一番に到着した鬼頭は日課である生徒会室の亀(かめ代)の世話をしたあと、今日の会議用にメンバーの飲み物を淹れるために各自のコップを用意していた。

その間に生徒会室にはメンバーがやってきて、高郷が紅茶を淹れるのを手伝ってくれた。


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