箱の中。
朝日を眺めて、新しい一日の始まりを確認してから、三度目の昼寝を終えた頃。
今日は快晴。
朝から数えて本日は二度ほど食事を取った。
太陽の位置を確認して、現在の時刻が正午を数時間過ぎたあたりだと推測する。
もうそろそろ、本日三度目の食事を摂りたいところなのだけれど。
残念ながら、食事が提供される気配がない。
食べるものが全く無いわけではないのだが、あるのは非常食みたいなもので。
食べなければ異界が見えるような領域ではないので、手を付けずにもう少し待つことにした。
ここは小さな世界。
四角く囲まれた箱の中。
外の世界はとてもクリアに見えるのに、外界との境界に透明な壁がある。
どこを向いても。
でも、それで十分なのだ。
陸があって、水辺があって、ちょっとした住まいのある、それだけの空間だけど。
自分だけの世界。
小さな、自分だけの町。
壁の向こうで広がる世界で、ガチャリと音がして誰かが空間に入ってきた。
大体毎回同じ時間に外の空間では人がやってきては、また何処かへ出て行く。
誰かが空間にいるときはうるさいくらいに賑やかで、寝付くのに時間がかかる。
そして、何日か繰り返すと、時々誰もやってこない日があって、そしてまた、同じサイクルを繰り返す。
季節によってそれは変則的で、長く誰も訪れないこともあるが、生死に関わるような問題は起きないので特に干渉はしない。
しようとしたところで、できないのだけれど。
困ることといえば、何日も訪問者がいない時には空腹が満たされないままの生活が続くこと。
そんな時には、先程も話した非常食を少しずつつついては、生活をしていく。
あと他に困るのは、この世界も少しずつ腐敗していくため景観と空気が悪くなることくらい。
ぼんやりと日を浴びながら、この小さな世界から見える壁の外の世界を眺めていると、先程この空間にやってきた人物が私の世界をゆっくりと動かす。
説明を忘れていた。
この世界は、大体一日に一回崩壊し、再生する。
「大体」というのは、先程も言ったように誰かが訪れたり、訪れなかったりする日があるからで、彼らによってこの世界は変革されていく。
そういえば、私の事を話していなかった。
私の名前は・・・
「ちょっとこっちにうごかしますね、かめ代さん」
そう。私の名前はかめ代。
いつからかめ代と呼ばれているかは覚えていないのだが、ここ何十年かはこの名前で呼ばれている。
私からは普段見えないが、私の世界のすぐ近くに木片に名前を書いたものが置かれている。
名札まで作ってもらったのは感謝したいところだが、ものすごく致命的な事に彼らは気付いていない。
いや、言うのも今更ではあるのだが、どうにも譲れない部分がある。
私はメスではない。
多分、一生彼らに事実を伝える機会は与えられないと半分諦めているので、複雑な思いの解決策として私は「かめ代」という名前をコードネームだと思うことにしている。
もちろん、任務も所属組織もない。
さきほど私の名前を呼んだのは、たしか「りゅうめい君」だ。
彼は、ここに人が訪れる場合には大抵一番乗りでやってくる。
まだ誰もいない空間の、多分自分の持ち場であろう定位置に抱えて持ってきた荷物を置いて、一息ついてから私の世界を動かす。